息子3人は、自分の部屋ではなくダイニングテーブルで勉強していた|引き継げる家の条件
2026/09/27
先日、義理の母の四十九日が終わりました。初七日から七日ごとにお坊さんが来てくださって、その日に集まれる家族だけが集まって、一緒にお経を唱える。それが七回続いて、ようやく忌明けです。亡くなってから四十九日のあいだは、次の生まれ変わる先が決まるまでの途中の時間だと言われていて、だから七日ごとに区切りがあるのだそうです。あの七回を終えてみて思ったことは、故人をしのぶ気持ちもありますが、家族が同じ場所に何度も集まったという感覚の方でした。そしてこの七回のあいだ、私は自分の家のダイニングテーブルのことを、思い出しました。
七日ごとに、家族が集まっていました
葬儀のときには親族が集まって、義理の母の思い出を語り合いました。これが不思議なもので、人それぞれまったく違う思い出を持っています。子どもたちは義理の母を「バーバ」と呼んでいたのですが、息子たちの記憶は「バーバは車の運転が荒かった。細い道をスピード出して走るから怖かった」と言うのです。私から見た義理の母は、いつもきちんとしていて、背筋がピンとしていて、一つ一つを丁寧に丁寧にこなす人でした。同じ人なのに、見ている相手によって顔がいます。思い出を持ち寄って並べていくと、その人がいろいろな角度から立体になっていくから不思議です。
そしてもうひとつ気づいたことは、あの場は思い出を語る場であると同時に、久しぶりに子どもたちがいとこたちと話す場にもなっていました。法事というと形式的なもののように思われがちですが、実際にはああいう機会しか、親戚同士が顔を合わせるきっかけは残っていません。それが今どんどん無くなってきていて、人間関係が希薄になっていくような寂しさを感じます。
考えてみれば、私が今ここにいるのは、何百人、何千人という先祖たちのリレーでつながっています。どこかで一組でも欠けていたら、私も子どもたちもいません。ふだんは忘れていますが、たまに立ち止まって考えると、奇跡的なことで感謝の気持ちになります。そして家を設計する仕事をしている身として思ったのは、家というのは住む器だけではなく「引き継ぐ場」なのではないかということです。引き継ぐのは土地や建物だけではありません。あの人はこういう人だった、こんなことを言っていた、この部屋でこんなことをした。そういうものが引き継がれていきます。ただ、設計でつくれるのは祈る場所そのものではありません。私たちがつくれるのは、あくまで人が集まる場所です。そこに人が繰り返し集まるから、結果として色々な思いでが重なり、心豊かに暮らすことの一つになる気がします。
昔の家には、集まる場所がありました
お盆になれば親戚が来て、その支度をする人がいて、みんなが座る仏間があった。親父の実家がそういう家でした。10人きょうだいで30人もいとこがいたので、盆や正月はとても楽しみでわくわくしていました。私が子どもの頃は、それが当たり前の風景でした。そして昔はお盆やお彼岸、命日という決まった日に集まる場所としての和室の仏間や床の間で人は自然と集まっていました。
ところが今は、お墓も実家も遠くなって、集まる日そのものが減ってきました。けれどみんなが集まりたくなる場所をつくれないかを考えることも私の住宅設計の課題としています。だから私は、そこに力を入れたいと思っています。
息子3人は、自分の部屋ではなくダイニングテーブルで勉強していました
我が家は常滑市にある古い家をリノベーションしたものです。今の2階のLDKは、もとは田の字に並んだ和室でした。そこで家族みんなで雑魚寝していました。1階は今は全部子供室にしてしまいましたが、昔はダイニングキッチンで、子どもたちとよく相撲を取りました。今思えば、よく家の中で相撲を取っていたなと思います。
そして2階に、大きなダイニングテーブルを置きました。ここが家族の集まる場所になりました。食事をするだけではありません。子どもたちは勉強もそのテーブルでしていました。大学受験のときは参考書が山積みでした。参考書の山。息子が3人いますから、それが並んで座るわけです。食事のときも、勉強のときも、あのテーブル。

我が家にはちゃんと子供部屋があります。設計したのは私です。それなのに息子3人は誰もほとんどそこで勉強せず、全員がダイニングテーブルに並んでいました。建築士が自分の家でこれですから、お客様にこども部屋の話をするときは躊躇します(笑)。念のために書きますが、それでも子供部屋は必要と思います。思春期のこどもには寝る場所と、一人でこもれる場所は、やはり別に必要と考えています。ただ、勉強のように誰かの気配があった方がはかどることは、集まる場所でやりたくなるのかもしれません。そして子どもが覚えているのは間取りではなく、そこで何をしたかなのです。
大人になった子どもの記憶は小さい頃は狭いところで川の字で寝ていた、相撲を取った、並んで勉強した、です。思い出は場所と行為がくっついた形で残ります。だから設計のときに私が考えるのは、この家のどこで家族が同じ時間を過ごすのかということです。
引き継げる家の条件は、5つあります
1. 直せる素材でできている
ビニールクロスや新建材、つまり工場でつくられた建材は、傷んだら剥がして捨てて、新しいものに替えます。きれいにはなりますが、そのとき前の状態は消えてしまいます。漆喰なら上から塗り重ねられますし、無垢の木なら削り直せます。直した跡がそのまま残る素材、言い換えれば手の跡が積み重なっていく素材です。値段はビニールクロスより高くなりますが、貼り替えが要らないので長い目で見ればお値打ちです。
2. 体で覚える場所がある
家族が繰り返し同じことをする場所が、家の中に一つあればいいのです。食卓でも、縁側でも、土間でもかまいません。我が家はそれがダイニングテーブルでした。体で覚えた家の記憶は、心豊かに暮らすことでもあると思います。
3. 前の人のものを置く、小さな場所がある
仏壇と言うと重く聞こえますが、今の住宅事情ではなかなか難しいのが現実です。けれど必要なのは一間の仏間ではありません。私は幅60センチもあれば足りると思っています。お母さんが使っていた器でも、お父さんの道具でも、写真一枚と花でもいい。何か一つ置いてあれば、前にここに人がいたことが家の中に残ります。正月の飾りや雛飾りを置く場所にもなりますから、一年の行事もそこに集まってきます。リビングの片隅で十分です。床の間の代わりだと思っています。もっとしっかりした仏間をつくりたい、和室の床の間を仏間にしたいという方は、費用や工程をまとめた記事がありますので参考にしてください。
床の間を仏間にリフォームする完全ガイド|費用・工程・素材・依頼先を一級建築士が解説
4. 人が集まれる余地がある
お客様によっては、大きな引き戸で部屋と部屋をつなげる提案をしています。ふだんは閉めて別の部屋として使い、人が集まるときには開けて一つの広い空間にする。昔の和室が襖で続き間になっていたのと同じ考え方です。ダイニングテーブルもただ食事をする場所ではなく、極力大きいものが置けるスペースを提案します。
5. 手入れの作法が受け継がれる
漆喰の欠けを親と一緒に子どもがなおす。ちいさな記憶・・渡すのは物ではなく記憶です。そして手入れの仕方を知っている人が家族の中にいれば、家はそのぶん長く生きます。
もうひとつ渡せるもの──図面
意外に思われるかもしれませんが、引き継げるものの中に図面があります。私は実施設計、つまり実際に工事をするための細かい図面を書くときに、そこをしっかり書きます。電気なら、どのスイッチがどの照明につながっているかまで。給排水なら、どの管がどこから来て、どこへ抜けていくかまで。ここまで書くかどうかは会社によって違いますが、私は引き渡しの時にお客様へ渡しています。
なぜ残すかというと、メンテナンスのときに重宝するからです。どこに配線が通っているのか、どの管がどこにつながっているのかが分かっていれば、直すときに困ることが少なくなります。20年後、30年後に手を入れる人にとって、これは相当ありがたい資料になります。家を引き継ぐというのは、建物と一緒に、直すための情報を渡すことでもあるのです。
長持ちする家は、先祖を敬うための条件です
建て替えというのは、親が手を入れた跡をすべて消す行為でもあります。柱につけた背比べの傷、何度も塗り重ねた漆喰の壁。30年ほどで建て替えてしまう家では、前の人がそこにいた記憶が残りません。もちろん、傷みが進んでいて建て替えた方がいい家もあります。ただ、まだ直せる家を壊してしまうと、そこで一度切れてしまうものがあります。
先祖を敬うというのは、難しいことではなくて、自分より前に人がいたことを忘れないということだと思います。だとすれば、長持ちする家というのは精神論ではありません。敬うための物理的な条件です。そして長持ちの本質は、丈夫であることよりも、直せることの方にあります。直せる素材で建てて、直し方が分かる図面を残しておけば、家は次の人の手に渡っていけます。
今の家でも、集まる場所はつくれます
新築でなくても、今住んでいる家でできることがあります。食卓を一回り大きいものに替える。壁際に幅60センチの棚を空けて、前の世代のものと花を置く。部屋の間の建具を引き戸に替えて、人が来たときに開けられるようにする。これは工事になりますが、壁を動かすより手軽です。この三つだけでも、集まれる家に近づきます。
常滑市や知多半島で家づくりやリノベーションを考えている方は、間取りや性能の話の前に「この家のどこで家族が集まるか」を一度考えてみるといいかもしれません。そこが決まると、間取りは後から素直に決まっていきます。私の家では、それが大きなダイニングテーブルでした。
常滑市・知多半島で自然素材の家づくりに興味がある方、ぜひ一度モデルハウスを見に来てください。営業は一切しません。見るだけでも大歓迎です。
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ではまた!