家は"若返りの部屋"になれるか|思い出の品・好きな音楽・一本の木を、設計に残す(老後も住みやすい家・常滑市の一級建築士)

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家は"若返りの部屋"になれるか|思い出の品・好きな音楽・一本の木を、設計に残す(老後も住みやすい家・常滑市の一級建築士)

2026/10/30

スマホ用のアームバンドを買いました。朝のウォーキングのとき、スマホをポケットに入れていると邪魔なんです。左手首に付けて歩きます。スマホを万歩計の代わりにしていて、今年の小さな目標は1日平均5,000歩。今は4,980歩前後で、あと少しです。最初は付けるのにちょっと戸惑いました。ただ、付けてみるとポケットより快適で、歩くのが楽になりました。

数字を一つ決めただけで、体が勝手に動く。気持ちが体を動かしているんだな、と思います。今日はそんな話をしたいと思います。


87歳の母と、映画「90歳。何がめでたい」を観てきました

9月に、母と妻と私の3人で映画「90歳。何がめでたい」を観てきました。原作は佐藤愛子さんのエッセイです。観終わって、私も佐藤愛子さんのように、明るく楽しく生きたいなと思いました。

隣に座っていた母は87歳。隣の家に住んでいて、多趣味です。カラオケ、庭いじり、刺繍。以前、常滑市の梅雨の記事でも少し書きましたが、好奇心が尽きない人で、iPadで株までやっています(笑)。肌のツヤもよくて、健康的です。一番元気に見えるのはカラオケを歌っているとき。歌って、庭をいじって、糸で絵を描く。毎日やりたいことがあるというのは、こういうことかもしれません。

母のリビングに並ぶ刺繍の額


20年前の部屋で1週間過ごした老人たちの話

映画を観ながら、ある実験のことを思い出していました。40年ほど前、海外の心理学者が高齢の男性たちを集めて、20年前そのままに作った宿舎で1週間過ごしてもらった実験です。家具も雑誌もラジオの放送も20年前のもので、参加者には「当時の自分として」過ごしてもらう。荷物も自分で部屋まで運ばせる。そうして1週間がたつと、体の動きや姿勢がよくなった人が出てきて、研究者自身が「最後は杖を手放して、一緒にフットボールをした」と語っています。

ただ、断っておくと、これは少人数の実験で、学術的に証明されたと言えるものではないようです。追試の結果もまだ出ていないと聞きます。だから「部屋を変えれば若返る」とは言えません。それでも私は、この話がずっと頭の中にありました。人の気持ちの持ち方が、体の健康を保っている。


老後も住みやすい家は、段差をなくせば足りるのか

設計の仕事をしていると、「老後も住みやすい家」の相談は、たいてい段差と手すりの話から始まります。1階だけで暮らせる間取りにしておきたい、廊下を広くしておきたい。それはもちろん大事なことで、私も必ず考えます。ただ、母を見ていると、元気の源は床の段差ではなく「今日やりたいことがある」暮らしの方にある気がします。段差をなくしても、やることがなければ、人は家の中で動かなくなります。

一方で、老後に家が広すぎて持て余す、という話もよく聞きます。子どもが巣立って部屋が余る。掃除も大変。そういうときに必要なのは、広さではなく「居場所」なのだと思います。息子3人がダイニングテーブルで勉強していた話や、事務所の桜の木を眺める話でも書きましたが、家の中で毎日目をやる先、毎日腰をおろす場所が、暮らしの質を決めるのではないか。老後の家も、たぶん同じです。


"若返りの部屋"を、設計で残す3つのこと

母の家は、私が設計した家ではありません。中古の家です。私が小学校6年生の時に引っ越してきてから、ずっと建っている家です。だから「家のおかげで元気」とは言えませんし、言うつもりもありません。ただ、母の暮らしを見ていると、これから家を建てる人には、設計の段階でこういう居場所を残しておけると思うことが3つあります。

1. 好きなことの居場所

刺繍なら、手元が明るい窓際のテーブル。カラオケなら、気兼ねなく声を出せる部屋。防音というより、家族に遠慮しなくていい位置にあることの方が大事だと思います。ところが、趣味というのは後から生まれるものです。今の趣味が10年後も続いているとは限らないし、新しいことを始めるかもしれない。だから最初から用途を決めきらず、「余白」を残しておく。以前、子供部屋を1部屋のまま残して、18年後に壁一枚で仕切った話を書きましたが、老後の趣味の部屋も、考え方は同じです。

2. 思い出の品と好きな音楽が、しまわれずに目に入る場所

実験の話で印象に残っているのは、若い頃に聴いた音楽や、若い頃に読んだ雑誌が部屋にあった、という点です。押し入れにしまい込んだ思い出は、人を動かしません。母のリビングには、自分で刺した刺繍の額が、展示場のようにずらりと並んでいます。毎日目に入るところに、自分の好きなものがある。あれが母の元気のもとの一つなのかもしれないな、と思います。写真でも、道具でも、レコードでも、毎日目に入るところに小さな棚を一つ。幅60センチもあれば足ります。先祖のものや前の家にあったものを置く場所は、引き継げる家の条件としても書きました。それは年をとった本人にとっても、気持ちの張りになるのではないかと思っています。

3. 外へ出たくなる理由を、家に付ける

庭いじりに出やすい掃き出し窓と、靴を履くときに腰をおろせる段。靴を出しっぱなしにしても困らない土間。朝のウォーキングにすっと出られる玄関。そして、窓から見える一本の木。外に出る理由が家に付いていると、人は動きます。私のウォーキングも、アームバンド一つでポケットより快適に歩けるようになりました。家も同じで、外へ出るまでの小さな面倒を一つ減らしておくことが、老後の体を動かすことにつながる気がします。

家は薬ではありません。家が人を若返らせるとは言えません。けれど、「今日もやりたいことがある」と思える居場所は、設計で用意できます。


次の一歩|常滑・知多半島で老後まで住む家を考えている方へ

老後まで住む家の相談は、段差や手すりの話だけでなく、「その家で何をして暮らしたいか」から一緒に考えたいと思っています。好きなことの居場所、思い出の品を置く棚、外へ出たくなる窓。間取りの前に、そんな話をしてみるといいと思います。

明るく楽しく生きる。87歳の母も、90歳の佐藤愛子さんも、やっていることはたぶん同じで、毎日やりたいことがあるだけなのだと思います。その「やりたいこと」の居場所を、家の中に残しておく。それが心豊かに暮らすということにつながっていく気がします。



常滑市・知多半島で自然素材の家づくりに興味がある方、ぜひ一度モデルハウスを見に来てください。営業は一切しません。見るだけでも大歓迎です。

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