古民家リノベーションの実例|解体して分かったこと、残すと決めたもの(常滑市の改修工事)
2026/09/17
常滑市のお客様の家で解体工事が始まりました。改修工事の、最初の一日です。長く住まわれてきた古い家で、これから手を入れて、来年1月末の完成を目指しています。解体といっても、建物をまるごと壊してしまうわけではありません。残すところは残して、傷んでいるところ、造り替えるところだけを取り払っていく工事です。そしてこのあと、思ってもみない場所がシロアリにやられているのが見つかります。
解体が進んでいくと、家の中はすっかりがらんどうになりました。壁も天井も取り払われて、部屋の仕切りが無くなって、家の骨組みだけが残っている。あんなに狭く見えた廊下や部屋が、ひとつづきの大きな空間になって目の前にありました。ここに親の世代、おじいちゃんおばあちゃんの世代が住んでいたのだと思うと、感慨深いものがあります。そして建築士としては、ここからが本番です。解体して初めて分かることが、古い家にはたくさんあるからです。

古民家リノベーションの実例|常滑市で始まった改修工事
古民家リノベーションの実例を探している方は、たいてい完成した写真をご覧になると思います。きれいに仕上がった土間、太い梁の見える居間。ただ、家づくりを考える方に本当に知っておいてほしいのは、その手前です。解体したときに何が出てきて、そこから何を残すと決めたのか。ここが古民家リノベーションの成否を分けるところなのに、写真になりにくいので、あまり語られません。
古い家に手を入れるときは、図面を描きながらも「開けてみないと分からない」部分を抱えたまま進みます。天井裏や壁の中は、住んでいる状態では見られません。ですから解体は、壊す工事であると同時に、家の健康診断でもあるわけです。
お客様の「玄関の建具は残したい」という一言
打合せのなかで、お客様がはっきりとおっしゃったことがありました。玄関の建具は、そのまま残したい、と。
玄関にあるのは、格子戸の引き違いです。細い桟が縦に並んだ、昔ながらの引き戸。今の家ではまず見かけませんし、同じものを新しく作ろうとすれば、それなりの手間もお金もかかります。ただ、お客様にとってはそういう話ではないのだと思います。毎日その戸を開けて家に帰ってきた。人を迎えるときも、出かけるときも、いつもこの戸があった。家の記憶というのは、床や壁よりも、手で触るところに残るのかもしれません。ドアノブ、手すり、そして建具。だから残す方向で進めています。
建具を残すと決めると、解体の仕方も変わります。玄関の格子戸は、いったん外して、工事をしない部屋に預かっておきます。室内の建具も、残すと決めたものは同じように保管します。敷居というのは、引き戸が滑る下の溝がついた横木のことですが、これも一度外さなければなりません。基礎の工事をするからです。外した敷居も一緒に保管しておいて、工事が済んだら、また元の場所に取り付けます。昔の建具は工場から買ってきた既製品ではなく、その家の寸法に合わせて建具屋さんが作ったものです。ですから戸と敷居と鴨居(戸の上で受ける横木)は、三つでひと組。戸だけあっても、受けるほうが無ければ、きちんと動く戸にはなりません。地味な段取りですが、これを忘れると二度と戻せません。
新しく作り直すのではなく、枠もそのまま使います。ただ、元どおりに戻して終わりかというと、そうでもありません。今の玄関の戸は、正直なところ開け閉めがしにくいのです。長い年月のあいだに敷居がすり減ったり、建物そのものが動いたりしていますから、当然といえば当然です。ですから戻すときに敷居の調整をして、すっと開くようにします。手間は増えます。ただ、その手間の分だけ、その家にしかならない家になります。
解体して出てきたもの|太い梁と、古い基礎
天井を取り払って、まず目に入ったのが梁でした。太い。今の家づくりではまず使わない太さの木が、何本も渡してあります。私はうれしくなって、しばらく見上げたまま写真を撮っていました。
古い家の梁を見るたびに思うのですが、昔の大工さんは、木を「計算」ではなく「見立て」で使っていました。この木はここに効く、この曲がりはこう使う、と。今の建築基準法ができたのは1950年(昭和25年)ですから、まだ76年しか経っていません。日本の木造建築の歴史からすれば、ほんの最近の話です。それ以前に建てられた家は、金物でがちがちに固めるのではなく、木と木を組んで、地震の力をしなって受け流すように造られていました。今の耐震の計算に当てはめれば数字は出ませんが、数字が出ないことと、弱いことは、同じではありません。何百年も残っている木造建築が現にあるわけですから、先人の知恵はやはりすごいなと思います。
床を剥がすと、古い基礎も出てきました。コンクリートで造ってあるところもあれば、石を据えただけのところもあります。今のように、建物の下をぐるりとコンクリートで固める布基礎とは違う、昔のつくりです。こういうものが出てきたときに、どこまで残して、どこから新しく造り直すのかを判断するのが、改修工事のいちばん頭を使うところです。全部やり替えれば安心ではありますが、それなら新築と変わらなくなってしまう。残せるものは残す。そのために現場で梁と基礎を一本ずつ、一か所ずつ見ていきます。
シロアリが食べていたのは、土台ではありませんでした
そして今回、いちばん驚いたのがこれでした。
シロアリというのは、ふつう土台や柱の根元を食べます。地面から上がってきて、湿った木から手をつけていくからです。ところが今回食べられていたのは、上にある梁でした。まじか、と思って見上げました。叩いてみると、軽い音がします。中の詰まった木の音ではありません。長く現場を見てきましたが、そう何度もあることではありません。

なぜ上の梁が食べられたのか。答えは、その下にありました。浴室です。浴室の上は、湯気と水気が毎日のように上がっていく場所で、昔のつくりだと、その湿気が抜けきらずに天井裏にこもります。木は、乾いていれば何百年でももちますが、湿ったままの木はシロアリにとってごちそうです。シロアリは木を食べに来ているというより、湿った木のあるところに来ている、と言ったほうが近いと思います。だから、床下だから危ない、二階だから安心、という話ではなくて、水気がどこに溜まる家なのかで決まります。
食べられていた梁は、取り替えます。ここは残せません。梁は家の重さを受けている骨ですから、食べられて断面が減った木をそのまま使うわけにはいかないのです。人間でいえば骨折した骨に、そのまま体重をかけるようなものです。新しい木を入れて、掛け直します。
シロアリそのものの話、とくに薬に頼らない湿気の管理については、以前に一本まるごと書きました。気になる方はこちらもどうぞ。
シロアリ対策は本当に必要?薬剤散布より100倍効く「湿気管理」の話
残すものは、解体してみないと決まらない
古民家リノベーションでは、着工前に「これを残しましょう」と決めたことが、解体後にひっくり返ることがあります。残すつもりだった木が食べられていた、逆に、替えるつもりだった木がびくともしていなかった。今回もまさにそれで、玄関の建具は残せて、梁の一本は残せませんでした。図面の上でどれだけ考えても、開けてみるまで本当のことは分かりません。
だからこそ、古い家に手を入れるときは、解体の日に設計者が現場にいることが大事だと思っています。その場で見て、その場で判断して、必要なら図面を描き直す。手間はかかりますが、これをやらないと「とりあえず全部新しくしましょう」になってしまって、その家が持っていたいいものまで一緒に捨てることになります。もったいないな、と思うのです。
家を残すというのは、古いものをそのまま置いておくことではありません。悪くなったところは正直に取り替えて、まだ働ける木は働いてもらう。その見極めをする作業のことだと思います。あの太い梁も、玄関の格子戸も、次の何十年かをまた家族と過ごすことになります。来年1月末の完成が、今から楽しみです。
常滑市や知多半島には、まだまだ立派な古い家が残っています。実家をどうしようか、この家はもう建て替えるしかないのか。そう迷っている方は、壊すと決める前に一度、建築士に中を見てもらうといいかもしれません。案外、残せるものが残っているかもしれません。
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