大工不足の時代が来る|銀行のビルと、大工の手
2026/08/10
うちのリビングからは、伊勢湾が見えます。窓の外をたくさんの船が行き来していて、大きな船が通るたびに「あの船、どこから来たんだろう」「どこの船なんだろう」と、毎回気になって仕方がありませんでした。
それなら船の図鑑のようなものがあるだろうと、ネットで探してみたこともあります。ところが、思うようなものが見つからない。そこでふと、「生成AIなら作れるんじゃないか」と思い立ちました。AI(Claude Code)に相談しながら作ってみたら、なんと、できてしまったんです。名古屋港の入出港情報を自動で取ってきて、今日どんな船が常滑沖を通るのかが分かる、自分専用の船図鑑アプリです。iPhoneで撮った船の写真から船名を調べて図鑑に登録していったら、気づけば18隻。早朝に入ってくる自動車運搬船、海外へ出ていく巨大なコンテナ船。調べてみると、どの船にも名前と航路と役割があって、なかなか面白いんです。おかげで今は、朝、海沿いをウォーキングしていると、あの船はなんという船だろうと気になって手が止まり、ウォーキングがちっとも進みません(笑)

この図鑑を育てながら、しみじみ思ったことがあります。世の中を実際に動かしているのは、モノを運ぶ人と、モノを作る人なんだな、と。自動車運搬船が止まれば車は届かないし、コンテナ船が止まればスーパーの棚が空きます。コロナの時に「エッセンシャルワーカー」という言葉が生まれましたが、あれは一時の流行語ではなくて、社会の本当の姿だったと思うのです。
ところで、昔から不思議だったことがあります。
銀行はなぜ、都心の一等地に立派なビルを建てられるのか
私は若い頃から、銀行がなぜ都心の一番いい場所にあんなに立派なビルを建てられるのか、意味がわからなかったんです。銀行も保険会社も、それ自体は何も作っていません。車も、食べ物も、家も。なのに、街の一等地に一番立派な建物が建つのは決まって金融機関で、一方で実際に家を建てる大工さんの手間賃は、その腕に見合って上がってきたとは思えない。ずっと引っかかっていました。
最近読んだ、経済思想家・斎藤幸平さんの『人新世の「資本論」』という本に、こんな一節があります。「高給をとっている職業として、マーケティングや広告、コンサルティング、そして金融業や保険業などがあるが(中略)実は社会の再生産そのものには、ほとんど役に立っていない」。人類学者のグレーバーという人は、こうした仕事を「ブルシット・ジョブ」と呼んだそうです。ずいぶん乱暴な言葉ですが、長年の私の疑問に、初めて理屈がついた気がしました。
誤解しないでいただきたいのですが、銀行で働く人を責めたいわけではありません。住宅ローンにお世話になっているお客様も多いですし、私も融資には助けられています。これは個人の話ではなく、報酬の配分が実際の働きと合っていないという、仕組みの話です。ただ、家づくりの現場にいる人間として、この配分のゆがみが一番痛い形で表れているのが、大工不足だと思っています。
大工不足の時代が来る|93万人が、29万人に
国勢調査によると、大工さんの数は1980年の約93万7千人がピークで、2020年には約29万8千人。40年で3分の1以下になりました。しかも60歳以上が43%を占め、30歳未満はわずか7%。このままいくと2030年代半ばには、ここからさらに半減しかねない、という予測もあります。93万人が、29万人。次は15万人かもしれません。
保育士さんの一斉退職や介護現場のストライキはニュースになります。声を上げる形の抗議だからです。ところが大工さんや左官職人さんは、声を上げません。黙って現場を去り、黙って息子には継がせず、静かにいなくなっていく。求人を出しても来ないのではなくて、若い人が入りたいと思えない単価と扱いを、業界全体が何十年も続けてきた結果だと私は思っています。腕を磨いても手間賃が上がらない世界に、誰が飛び込むでしょうか。
これは新築だけの話ではありません。むしろリフォームの現場から先に、大工不足は効いてきます。古い家の改修は、開けてみないと分からないことだらけで、図面通りにいかない仕事の連続です。マニュアル通りに部材を取り付けるのではなく、その場で考えて納まりを判断できる職人さんでないと、手が出せない。そういう職人さんほど、もう数が少ないのです。
それでも家は、人の手でしかつくれない
いま、外壁と内装をあわせて改修しているお宅があります。内装は大工さんの仕事で、先日ちょうど工事が終わったところです。見積を作るときには、図面を見ながら下地に使う木材を長さごとに一本ずつ拾い出しました。新築なら、プレカット工場で寸法どおりに刻まれた材が現場に届きます。でも改修はそうはいきません。既存の床や壁のわずかな狂いに合わせて、大工さんがその場で刻み、削り、組んでいく。先ほど書いた「開けてみないと分からない」仕事に、その場で答えを出せる手が要るのです。
一方、外壁はこれからで、お盆明けから工事が始まります。このお宅の外壁は「そとん壁」という、火山灰(シラス)からできた自然素材の塗り壁で、今回は年月で汚れた壁をきれいに洗い、コーティングで保護する工事です。見積のために図面から面積を拾い出したら約185㎡ありました。拾いながら、これを全部人の手で塗ったのかと、ちょっと気が遠くなりました(笑)。この185㎡を、ムラなく、雨風に耐える壁として塗り上げたのは、鏝一本を握る左官職人さんの手です。AIにも、工場のラインにも、これはできません。
ちなみに、世界最古の木造建築である法隆寺は、築1300年を超えています。図面ソフトもクレーンもない時代に、宮大工の手と頭がそれを建てました。手の仕事というのは、きちんとした材料できちんとやれば、建物をそれくらい長生きさせる力があるのです。私は船のアプリを自作するくらいAIを面白がって使っていますが、だからこそ分かることがあります。AIが代われるのは、机の上の仕事です。現場で予想外のことが起きたとき、考えながら手を動かして納められるのは、経験を積んだ職人さんだけ。技術が進むほど、その手の価値はむしろ上がっていくはずだと思っています。
発注する側が、単価と敬意で応える
では、どうすればいいのか。私は、鍵を握っているのは発注する側だと思っています。つまり、私たちのような工務店と、家を建てるお客様です。
工務店にできるのは、職人さんが食べていける単価を守ることです。相見積もりで一番安いところに投げる、を全員が続けてきた結果が、今の大工不足です。腕の良い職人さんの仕事に正当な値段を払い、続けて仕事をお願いし、良い仕事は良いと本人に伝える。当たり前のことですが、この当たり前が業界からずいぶん抜け落ちていました。私は知多半島の腕の良い職人さんたちと長く組んでいますが、彼らが現役でいてくれることは、会社の看板よりずっと大事な財産だと思っています。
そして家を建てる方、リフォームを考えている方にお願いしたいのは、値段だけでなく「誰が作るのか」を見てほしい、ということです。安さの理由は、たいてい誰かの手間賃を削ったところにあります。そして手間賃を削られた現場から、考えて作れる職人さんは静かに去っていきます。逆に、職人さんに正当に払う家づくりは、決して損ではありません。丁寧に作られた家は長持ちしますし、住み始めてから何かあったときに、そのお宅を分かっている職人さんが手を入れに来てくれる。家は建てたら終わりではなく、職人さんの手を借りながら長く住み継いでいくものです。
沖を行く貨物船と同じで、家づくりも、実際に手を動かす人がいなくなったら止まります。立派なビルではなく、鏝と鑿を握る手が社会を支えている。その手が報われる家づくりを、常滑の片隅から続けていきたいと思っています。
次の一歩
自然素材の家づくりや、職人の手仕事に興味のある方は、常滑市のモデルハウスで漆喰の実物に触れてみてください。鏝の跡が残る壁の表情は、写真では伝わりません。リフォームのご相談も、まずは現状を見せていただくところからで大丈夫です。
常滑市・知多半島で自然素材の家づくりに興味がある方、ぜひ一度モデルハウスを見に来てください。営業は一切しません。見るだけでも大歓迎です。
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ではまた!