リノベは「新築の8割」の予算|建築士が向く家族・向かない家族を正直に話す。
2026/06/02
数年前、常滑市の大正時代に建てられた古民家のリノベーション調査に伺ったことがあります。お施主様の手入れが行き届いていて、太い柱と梁の木組みがそのまま生きている、本当に綺麗な状態のお宅でした。図面が一切残っていなかったので、全部屋の寸法を一から取らせていただいたのを覚えています。寸法を取りながら木組みを見上げていると、釘も使わずに梁が組まれていて、これは地震が来てもしなって力を逃がす日本の伝統工法そのものだなあと、感心しっぱなしでした。
ひととおり寸法を取り終えて、ご家族にお茶を出していただいたタイミングで、私はお伝えしたことがあります。
「リノベーションは、新築の8割くらいの予算がかかります」と。
ご家族は少し驚いた顔をされていました。「リノベは新築より安い」と思って来られる方は、本当に多いんです。今日はこの思い込みと、それでも私がリノベを心からおすすめしたいご家族と、正直やめておいたほうがいいご家族の話をしたいと思います。
「リノベは新築より安い」と思って来られる方が一番多い
「新築の半額くらい」と思って来られる方が多い
先日も、常滑市のお客様からリノベーションの相談がありました。築50年ほどの木造2階建てで、親御様から譲り受けたお家です。お話を伺っていると、やはり「リノベなら新築よりずっと安く済む」と思っていらっしゃるご様子でした。
これは決してお客様が悪いわけではなくて、テレビのリフォーム番組や雑誌の影響が大きいんだろうなと思います。ああいった番組では、限られた予算で家が見違えるように変わる様子が紹介されますが、宣伝のために工務店がかなり無理をしていますので実際の金額とかけ離れています。
ちなみに私の感覚で言うと、雑誌に出てくる「○○万円リノベ」のほとんどは、間取りを変えずに表層を整えただけの「フルリフォーム」です。間取りを変えて構造を補強して断熱までやり直すと、まずその金額では収まりません。だから検討の最初に「どこまでやるのか」を整理しないといけません。
結論を先に言うと、新築の8割は予算がかかります
結論からお話します。常滑市・知多半島でフルリノベーションをきちんとやる場合、新築の8割の予算がかかります。これは私が現場で何度も見積もりを取って実際に出てきた数字なので、誇張ではありません。
新築が3,000万円の家なら、フルリノベは2,400万円前後。これが現実なんです。じゃあなんで安くならないのか?を次でお話します。
リノベーションと新築、どっちが安いのか?数字で見る
解体・撤去で200〜400万円
まず最初に立ちはだかるのが解体費です。床・壁・天井をめくり、不要な間仕切りを撤去して、構造体だけを残す「スケルトンリノベ」を行うと、木造2階建てでだいたい200〜400万円かかります。
新築の場合は更地で始まるので、当然この費用はかかりません。逆に言うと、リノベはスタートラインに立つまでに数百万円が消えていく工事なんです。
既存の構造補強(基礎・柱・梁)で300〜500万円
リノベで一番大事なのが、この構造の見極めです。私たちは解体に入る前の段階で、床下に潜ったり点検口から小屋裏をのぞいたりして、基礎にクラックが入っていないか、柱や梁にシロアリの食害がないか、ホゾの抜けがないかを一つひとつ確認していきます。そのうえでおおよその方向性を決めて、先に見積もりをお出しします。ただ、壁や床をめくってみないと見えない部分も残るので、解体後に追加の工事が必要になる可能性があることは、最初に必ずお伝えするようにしています。
築30年以上のお家だと、まず基礎の補強が必要になることが多いです。古い建物は無筋コンクリートの基礎だったり、鉄筋が入っていてもかぶり厚が不足していたりします。耐震補強と合わせると、構造関係だけで300〜500万円は見ておかないといけません。
ちなみに、現行の木造住宅の構造基準が出来たのが1950年頃なので、まだ76年程度の歴史しかありません。それ以前の建物は今の基準とは違う設計思想で建てられているので、現行法の物差しで測ると「耐震性ゼロ」と判断されることが多いんです。けれど法隆寺が1300年以上現存している事実を思えば、伝統工法そのものが弱いわけではないんですよね。要は「現代の物差しに合わせるためのコスト」が乗っかってくる、という話なんです。
シロアリ被害が見つかると、土台や柱の交換が追加で発生します。蓋を開けてみないとわからない、というのが正直なところです。
設計の自由度が制約される=「壁を残す」コスト
意外と知られていないんですが、リノベは「設計の自由度が新築より低い」です。これがコストを押し上げます。
新築なら、お子さんの動線や奥様の家事動線に合わせてゼロから間取りを作れます。ところがリノベは、既存の柱・梁・耐力壁という制約の中で間取りを考えないといけません。「ここの壁をどうしても抜きたい」となると、抜いた壁の代わりに梁を補強して、柱を増やして、というふうに構造補強の費用が積み上がっていきます。
つまり「壁を残すコスト」と「壁を抜くコスト」のどちらも、新築には存在しない費用なんですね。ここを理解しないまま見積もりだけ見ると、「思ったより全然高い!」となってしまうんです。
それでもリノベが向く家族(思い出を継ぐリノベ)
親から譲り受けた家・記憶のある家
ここまで「リノベは高い」という話ばかりしましたが、それでも私はリノベを心からおすすめしたいご家族がいます。それは親御様から譲り受けたお家を、自分たちの代でも住み継ぎたいというご家族です。
冒頭の大正時代の古民家のお話に戻ります。あのご家族は、おじいさまが建てたお家を3代にわたって住み継いでこられました。記憶の積み重ねも大きな価値ですが、実際に寸法を取らせていただいて何より感じたのは、使われている材料が今のものとは全く違うということです。柱も太く、梁も太い。釘を使わずに組まれた木組みは本当に丈夫で、こういう骨格は今の住宅ではなかなかお目にかかれません。時間の積み重ねと、しっかりした骨格。このどちらも、新築には簡単に作れないものなんです。
法隆寺が1300年以上も建ち続けているのは、伝統工法の力もありますが、人々が「残したい」と思い続けてきたからでもあります。家も同じだなと思います。記憶を継ぐ器としての家は、お金には換算できない価値があるんです。
立地への愛着が強い家族
もう一つは、その土地・その地域への愛着が強いご家族です。「常滑のこの場所で育ったから」「目の前の海が見える窓を残したい」「庭のあの木と一緒に暮らしたい」。こういう思いがある方は、リノベーションがピッタリです。
土地から探して新築する場合、希望の場所に手頃な土地が出てくるかは運次第です。常滑市内でも、海が見える土地や駅徒歩圏の土地は、出てもすぐ買い手がついてしまいます。それなら今あるお家の構造を活かして、内側を作り直すほうが結果的に早いし確実なんです。
私自身、知多半島を歩いて一周したことがありますが、海沿いの古いお家を見ていると、その家がその場所にあること自体に意味があるんだなあとしみじみ感じました。窓から見える景色、玄関を開けたときの風の匂い。こういうものは新しい土地に引っ越したら失われてしまいます。立地への愛着は、お金で買い直すことができないからこそ重みがあるんです。
常滑・知多半島で続く古民家文化を残したい方
常滑は焼き物の町として千年以上の歴史があります。知多半島も江戸時代から続く街道沿いの集落がたくさんあります。私はこの地域で仕事をさせていただいて20年以上になりますが、古い町並みの中に残る古民家を見るたびに、ここに住んでくれる若い世代がいてくれることが本当にありがたいなあと感じます。
古民家を解体して新築にしてしまうと、その地域の景観が一つ失われます。逆に、古民家を活かしたリノベが増えると、町全体の魅力が積み重なっていきます。常滑市の山方町や栄町、大野町あたりを歩いてみると、まさにそれを感じます。
家のメンテナンスについては、過去の記事でも書きました。15年前に建てたお家のメンテナンスのお話で、長く住み継ぐためには定期的な手入れが大事ですよ、というお話をしています。
👉 15年前に建てた家を訪ねて|家のメンテナンスをしないとどうなる?自然素材の答え
リノベが向かない家族(はっきり言わせてください)
向く家族の話をしたので、向かない家族の話もしないとフェアじゃないですよね。ここは少し厳しいことを言いますが、ご家族の将来のためなので正直にお話します。
「とにかく安く済ませたい」が一番の動機の方
一番大事な話です。リノベを検討される動機が「とにかく安く済ませたいから」というご家族は、リノベには向きません。
これまでにお話しした通り、リノベは新築の8割の予算がかかります。さらに、解体してから「あれもこれも追加で必要」が出てくるリスクがあります。予算ありきで進めると、途中で資金が尽きて、中途半端な工事で終わってしまうことが一番怖いんです。「安く済ませたい」が最優先なら、建売住宅が結果的に安心です。
高度経済成長時に建てた築30年以上+構造劣化が深刻な家
築30年以上で、なおかつ土台などの床下の劣化が進んでいるお家は、正直に言って建て替えのほうがコスパが良いです。
特に1981年(昭和56年)以前に建てられた、いわゆる旧耐震基準の建物は、構造補強だけで数百万円が飛びます。さらに集成材や合板下地が使われていると、接着剤の劣化が20〜30年で進むので、見えないところがボロボロになっていることが多いんです。
過去のブログでもお話しましたが、戦後の高度経済成長期に普及した人工乾燥材や集成材は、本来の木が持つ防虫成分が抜けています。そういう構造材が使われたお家を補強しながら使うのは、土台が砕けた上に補強するようなもので、私の技術者としての良心がOKを出せません。
「寒い古民家」を断熱なしでそのまま使いたい方
古民家ならではの土壁や太い梁を残したまま、断熱もせずにそのまま使いたい、というご要望もたまにいただきます。これも正直、おすすめしません。
知多半島は冬になると風が強く、外からの冷気が容赦なく入ってきます。断熱を入れない古民家でひと冬越すと、暖房費がとんでもないことになるし、ご家族の健康面でもヒートショックのリスクが上がります。私は心筋梗塞を経験しているので、これは本当に他人事じゃないんですよ。
ただ、誤解しないでいただきたいのは、私は「高気密にしてビニールシートで包め」と言っているわけではありません。むしろ逆で、自然素材の調湿性を活かしながら、必要なところだけ断熱材を入れる、というやり方が古民家には合っています。土壁の調湿性能を殺してしまったら、夏は蒸し風呂、冬は結露だらけのつらい家になってしまいます。古民家リノベは「呼吸する家」を活かすのが基本だと、私は考えています。
古民家の良さを残しつつ、断熱はきちんと入れる。これがリノベの最低ラインだと思っています。
リノベとリフォームの使い分け|400万円が分かれ目
間取りを変えない=リフォーム(数十万〜数百万)
ここで言葉を整理しておきます。「リノベ」と「リフォーム」は、業界でも明確な定義がないので混乱しやすいんですが、私の中ではこう使い分けています。
リフォームは「今ある間取りを変えずに、傷んだところを直したり新しくしたりする工事」。たとえばキッチンの入れ替え、お風呂の交換、クロスの貼り替え、外壁塗装。これらは数十万〜数百万円で収まることが多いです。
間取り・構造に手を入れる=リノベーション(1,500万〜)
一方リノベーションは「間取りや構造に手を入れて、家の機能や性能を作り変え、さらに付加価値を加える工事」。スケルトンにして耐震補強して断熱を入れて、新しい間取りを作る。これは1,500万円以上、フルでやれば2,000万〜2,500万円が現実的なラインです。
ざっくり言うと、工事費400万円あたりが分かれ目です。それ以下ならリフォーム、それ以上ならリノベ。ご相談に来られる際は、「自分たちがやりたいのはどっちなのか」を一度整理してから来ていただけると、話がスムーズに進みます。
常滑市でリノベを進める手順(建築士の視点)
まず構造調査と耐震診断
リノベを真剣に検討するなら、まず最初にやるのが構造調査と耐震診断です。築年数・構造形式・基礎の状態・シロアリ被害の有無・雨漏りの痕跡・小屋裏の状態。これを一通り見て、リノベが現実的な物件かどうかを判断します。
ここで「補強しても費用対効果が見合わない」と判断したら、私は正直に「建て替えのほうがいいですよ」とお伝えします。建築士はお客様の財布の番人でもありますから、無理にリノベ案件を取りに行くことはしないようにしています。
見積もり前に「家族会議」をしてほしい理由
これは私からのお願いに近いんですが、見積もりを依頼される前に、ご家族で一度しっかり話し合っていただきたいんです。
「なぜこの家を残したいのか」「将来この家に何年住むつもりか」「子どもさんが巣立った後の使い方をどうするか」。こういう話を、ご夫婦やご家族で共有しないまま見積もりだけ取ると、後で必ず意見がぶつかります。お父様は「思い出があるから残したい」、奥様は「正直、新築のほうがいい」、お子さんは・・・。みんな違う方向を向いているまま工事が始まると、途中で必ず止まります。
家は道具じゃなくて器なので、「何を入れる器なのか」を家族で共有してからじゃないと、いい器にはなりません。
補助金が使えるかを必ず確認
常滑市にはリノベーションや耐震改修に使える補助金があります。耐震診断・耐震改修・省エネ改修・三世代同居改修など、要件はそれぞれですが、使えれば数十万〜100万円以上の補助が出ることもあります。
補助金の話は次回別の記事で詳しく書く予定です(公開後にリンクをここに追加します)。
常滑・知多半島で工務店を選ぶときの注意点
リノベに慣れている工務店と「新築だけ」の工務店の差
最後に、工務店選びの話です。リノベーションは新築よりはるかに難しい工事です。何しろ「設計図のない既存建物」が相手なので、解体してみないとわからないことだらけ。
ここで困るのが、新築ばかりやってきた工務店にリノベを頼んでしまうケースです。新築の感覚で見積もりを出すと、解体後の追加工事に対応できず、追加見積もりが何度も発生してトラブルになりがちです。
リノベに慣れている工務店は、最初の見積もりで「想定外への予備費」を組み込みます。これがあるかないかで、進めるときの安心感が全く違うんです。
工務店の選び方は次の記事で詳しく書きますので、そちらもぜひ読んでみてください。
まとめ|家は「記憶を継ぐ器」です
新築であれリノベであれ、家の役割は「ご家族の人生の器」です。器の中に入る思い出や時間の重なりこそが、家の本当の価値だと思っています。
リノベは新築の8割の予算がかかります。これは事実です。けれど、その家に積み重なった時間と記憶を一緒に住み継ぐ価値があるなら、リノベは決して高い買い物ではないと思います。逆に、その思いがないなら、新築のほうがご家族にとって幸せだとも思います。
常滑市・知多半島で、ご家族が自分たちの人生を好きになれる家を作る。そのお手伝いができれば、建築士としてこんなにありがたいことはありません。リノベーションにしようか新築にしようか悩まれた時でもご相談ください!
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常滑市・知多半島で自然素材の家づくりに興味がある方、ぜひ一度モデルハウスを見に来てください。営業は一切しません。見るだけでも大歓迎です。
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